「KPI(重要業績評価指標)」は、営業やマーケティングだけでなく、近年では人材採用の分野においても広く活用されるようになりました。KPIは、採用活動の成果を可視化し、企業の目標達成に向けた進捗を管理する上で非常に重要な役割を果たします。採用の成否が企業の成長に直結するため、適切なKPIを設定することで、効果的な採用活動が実現できるのです。
本記事では、採用KPIの意義や設定時のポイントについて詳しく解説しています。また、記事内ではKPI策定に役立つテンプレートもご用意しており、テンプレートの使用方法も解説しておりますので、ぜひご活用ください。
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採用KPIとは?
採用KPIとは最終的な「採用目標」を達成するまでの達成度合いを測る指標のことです。
ここで、KPI、KGIとは何かを明確にしておく必要があります。
KPIとKGIの違い
KGI(Key Goal Indicator)とは、企業が最終的に達成を目指すべき具体的な目標そのものです。これに対し、KPI(Key Performance Indicator)は、その目標に向けた進捗状況を数値で測るための中間指標を意味します。どちらも、成果を確実に追うために定量的で明確な指標として設定することが重要です。
採用活動におけるKGIとKPIの設定も、単に「採用人数を増やす」などの漠然とした目標に終わらせないことがポイントです。たとえば、採用のKGIとして「〇〇年度中に新卒採用で7名の内定者を確保する」というような具体的な人数を掲げます。そして、そのKGI達成に向けてのKPIに、「月ごとの応募者数」「面接通過率」「内定辞退率」など、採用プロセスの各段階を反映する数値を設定します。
これにより、採用の進捗状況を定量的に評価できるため、どの段階で調整が必要かを把握しやすくなります。
採用におけるKPIの目標例
採用KGIには、最終的な「採用人数」が当てはまります。
採用KGIはほとんどの企業で同様の目標を立てていると思いますが、採用におけるKPIは企業によってさまざまです。
下記に具体的なKPI例を記載するので、参考にしてください。
1. 募集・応募段階
- 採用チャネルごとの応募者数
- 採用チャネルごとの費用対効果
- 応募から初回連絡までのリードタイム
- 企業ホームページや求人サイトの閲覧数・クリック数
2. 説明会・会社説明段階
- 説明会参加者数/参加率(エントリー数に対する出席数の割合)
- 説明会から選考応募への移行率(説明会参加者数に対する応募者数の割合)
- 説明会満足度
3. 書類選考段階
- 書類選考通過者数/通過率
- 書類選考から次の選考までのリードタイム
- 書類選考での不通過理由の割合(例:資格不足、スキル不足など)
4. 面接選考段階
- 面接実施数
- 面接通過者数/通過率
- 面接から次の選考までのリードタイム
- 面接評価の平均点
- 面接辞退率
5. 最終面接・内定段階
- 最終面接通過者数/通過率
- 内定数
- 内定承諾率
- 内定辞退率
- 内定から入社までのフォローレスポンス率
- 内定者フォローの実施数
6. 入社後のフォロー段階
- 入社日までの定着率(内定者数に対する入社者数の割合)
- 入社3か月後・6か月後の定着率
- 入社後評価の平均点(パフォーマンス評価)
- 試用期間終了後の本採用率
- 入社後離職率(入社1年以内の離職率)
採用KPIの設定はメリットづくし
採用活動においてKPIを設定することは、採用の進捗管理だけでなく、戦略の明確化や改善点の発見に大きく役立ちます。ここでは、採用KPIを設定することの主なメリットについて解説します。
採用方針の明確化につながる
採用KPIを設定することで、企業が目指すべき採用方針が具体化されます。たとえば、「半年以内に営業職7名の採用を完了する」といったKGI(Key Goal Indicator)の達成に向けて、応募者数や選考通過率などのKPIを段階的に設けることで、目標達成に必要な具体的な行動が洗い出されます。このようにKPIをベースにすることで、採用方針が数値化され、誰が何をすべきかが明確になるため、採用活動がより効率的に進められるのです。
採用のどこに課題があるかわかりやすくなる
KPIを設定すれば、採用活動の各ステージで何が効果的か、どのプロセスに課題があるかを把握しやすくなります。たとえば、面接通過率は高いものの、内定承諾率が低い場合は、候補者の興味や企業理解が十分に進んでいない可能性があります。この場合、候補者に対する魅力づけや内定後のフォローが重要な改善点として浮き彫りになります。KPIに基づく効果分析により、採用プロセスごとの改善が可能になり、結果として質の高い採用が実現しやすくなります。
KPIに紐づいて役割が明確になる
採用KPIの設定は、採用担当者や関係者の役割を明確にする効果もあります。採用活動は、企業の採用担当者だけでなく、面接官や外部エージェントなど複数の関係者が関わります。KPIを設定することで、各ステージで達成すべき数値目標が明示されるため、担当者ごとに具体的な行動や責任がはっきりします。また、KPIに基づく進捗評価が可能になるため、採用担当者の貢献度が数値で示され、正当な評価が行いやすくなると同時に、モチベーション向上にもつながります。
KPIの立て方と手順を解説
採用KPIについてイメージをつかむことはできましたか?
続いて、採用KPIを立てる際に気になるのは「自社にあった採用KPIの立て方」です。本項目では採用KPIの立て方について順を追ってご説明いたします。
1.KGIを設定する
KPIを立てる際にまず行うべきことは、KGIの設定です。KGIの設定が定まっていないと、途中段階の評価指標であるKPIも決められず、採用活動が不明確な方向に進んでしまいます。
KGIを立てる際に決定するべきポイントは「人数」と「採用人材の質」です。
たとえば、欠員補充のための採用であれば、人数を満たすことが主な目的になりますが、特定のスキルや経験が必要なポジションに対する採用であれば、ただの人数確保では十分ではありません。未経験者を採用してもプロジェクトの成功に寄与できないケースもあるため、採用する人材の質を考慮する必要があります。
どのような目的で、どのような人材が何人必要なのかを明確に設定しましょう。
具体的なKGI設定の例として、
・〇〇年度中にプロジェクト遂行のために、営業経験者5名を確保する
・半年以内に営業職で10名を採用する
などが挙げられます。このように、期間・人数・求める人材像を明確にすることで、採用活動全体の方針が定まり、後続のKPI設定もより効果的に行えるでしょう。
2. 採用フローを書き出す
KGIが決定したら、次に行うのは、採用プロセス全体のフローを可視化することです。採用フローを書き出すことで、採用までの各ステップにおける行動が整理され、KPI設定における指針が明確になります。
採用チャネル | 採用フロー | KPI:採用目標人数 | KPI:予算 |
ナビサイト | 応募→書類選考 → 説明会 → 面接(1〜2回) → 内定 | 7名 | 200万円 |
合同説明会 | 説明会参加 → 個別面接 → 面接(1〜2回) → 内定 | 2名 | 50万円 |
スカウト | スカウト送信 → 応募 → 書類選考 → 面接(1〜2回) → 内定 | 2名 | 150万円 |
3.想定の歩留まりを設定する
採用フローを明確にしたら、次に各ステージごとに歩留まり率を設定します。過去の採用データがあれば、その数値を基に歩留まり率を算出することで、現状の課題や改善点を見つけやすくなります。たとえば、説明会の参加者数に比べて、次の選考ステージへの進出者が少ない場合、説明会での魅力づけや内容に改善の余地があるかもしれません。
また、歩留まり率の目安がない場合、他社のデータや一般的な業界水準を参考にすることも効果的です。必要であれば、採用コンサルタントやアウトソーシング企業に相談することで、適切な歩留まり設定の支援を受けることも検討できます。
具体例として、以下のように歩留まり率を設定できます。
【ナビサイト】
- 書類選考合格率:50%
- 一次面接通過率:50%
- 内定率:50%
- 内定承諾率:60%
このように歩留まり率を設定することで、各ステージでのパフォーマンスを定量的に管理でき、必要な改善策を明確にして採用フローの効率化を図れます。
4.KPIツリーを作成する
自社の採用課題が明確になったら、次はKGI(最終目標)に基づき、採用活動の進捗を具体的に管理するためのKPIツリーを作成します。
このKPIツリーは、KGIと採用チャネル、各ステージの歩留まり率を反映させることで、各ステップにおける目標が明確化され、最終的なKGI達成に向けて体系的な管理が可能になります。
【ナビサイト】
- 応募者数:100名
- 一次面接通過者数:50名(書類選考通過率50%)
- 最終面接通過者数:25名(一次面接通過率50%)
- 内定者数:12名(内定率50%)
- 内定承諾者数:7名(内定承諾率60%)
また、KGIを立てる際に決定するべきポイントは「人数」と「採用人材の質」であるとKGIの設定時にお伝えしました。実際に、人員の絶対数が不足している場合は採用人数を重視し、計画を立てることが多くなりますが、特定のスキルや経験が求められる中途採用やプロジェクト進行に関わる人材が必要な場合は、質を優先する方が成果につながりやすくなります。
こうした計画を具体化し、採用活動全体の流れや目標に沿った管理を行うためのツールとして、「採用計画テンプレートシート」も活用してみてください。
採用KPI作成のポイント
KPIの立て方についてご紹介いたしました。続いて、細かい作成時のポイントをご紹介いたします。
会社によって重要度の高い採用KPI指標は異なる
採用活動において、企業によって注力するべきKPI指標は大きく異なります。
これは、各社が求める人材の質や採用人数、採用チャネルの戦略が異なるためです。
例えば、大量採用が必要なケースでは、特定のスキルを持つ人材を少人数採用するべき企業と比較すると「応募者数」や「書類選考通過率」が重要です。なぜなら、採用人数が多いほど、全体の母集団が大きくなければ、必要な人数を確保できなくなる可能性が高まるからです。
以下に、「大量採用が必要な場合」と「少人数でスキル重視の採用が必要な場合」の違いを、採用目標人数、ターゲット、重要視するべきKPI、KPI重視の理由の項目ごとに整理した表を示します。
採用条件 | 採用目標人数 | ターゲット | 重要視するべきKPI | KPI重視の理由 |
大量採用が必要な場合 | 多数(例: 50~100名) | 経験やスキルにこだわらない幅広い層 | 応募者数、書類選考通過率、説明会参加率 | 多くの応募者を確保することで必要な採用人数を満たせる可能性が高まる。書類選考通過率を調整することで面接の負荷を適正化しつつ、母集団の質を維持するため。 |
スキル重視の少人数の場合 | 少数(例: 3~10名) | 特定のスキルや経験を持つ専門人材 | 面接通過率、内定承諾率、内定辞退率 | 特定のスキルを持つ人材が少ないため、面接通過率で質の高い候補者を確保し、内定承諾率や内定辞退率を管理してターゲット層に確実にリーチするため。 |
期限を設定する
1つ目のポイントは、期限を設けることです。
KGIである採用目標の達成期限は長くて新卒通年採用の1年間です。どんな目標も期限を設けなければいずれ達成できます。しかし、KGIの目標を達成するために立てたKPIの目標に期限を設けずダラダラと続けては、1年間の期限があるKGIは達成できません。
KPIに対するアクションプランを立てる
2つ目のポイントは、KPIに対してアクションプランを立てておくことです。
KPIを立てたままになってしまっては、達成できる数値も達成できません。KPIを達成するためにどのようなアクションを行うのかをあらかじめ決めておきましょう。
ここで重要なのは、「KPIを達成するために必要な手段かどうか」のため、用意していたアクションプランがあまり効果的でない場合は変更も視野に入れて柔軟に対応しましょう。
達成度を計測できるようにする
3つ目のポイントは、立てるKPIは数値で計測できるものにするということです。
なぜなら、採用KPIは採用に関わる全ての人が目標とし、この指標で良し悪しを評価するためです。人によって達成度合いの解釈が異なる目標では意味がありません。そのような状況にしないためにも、KPIは数値で測れるものにする必要があります。
期限があると、効率を求めるために必要最低限の手法を模索し効率的に業務を行えるといったメリットがあります。
リアルタイムで確認し、改善と効果検証を繰り返す
4つ目のポイントは、成果をリアルタイムで確認し、改善と効果検証を繰り返すことです。
1年間の振り返りの際に良し悪しを確認するようでは、継続した成果は見込めないでしょう。せっかく数値で測れる指標をつけたのであれば、進捗が悪い際には改善の行動を取ることが大切です。
定期的に確認することで、いち早く課題を見つけることができ、事態の悪化を事前に防ぐことにも繋がるでしょう。
データの収集方法を明確にする
5つ目のポイントは、データの収集方法を明確にしておくことです。データの収集と分析は採用を成功させるために欠かせません。もしもKPIの分析をするためのデータが不十分であれば、せっかくの目標も正確な進捗を把握できないことや、振り返りができないという状態になってしまいます。
加えて、正確なデータではなかった場合、誤った解釈で軌道修正をすることになる可能性も十分に考えられます。
採用KPIシートの使い方と使用例
ダウンロードいただける採用KPIシートの使い方を実際の使用例を交えて解説します。
過去の実績値を入力する
続いて、「実績分析タブ」に実績値を入力して行きましょう。
青字は関数が入っておらず、担当者の方に入力していただくセルになります。
自動入力される内容は下記です。
自動入力項目
・各項目数値合計
・会社説明会予約・参加率
・一次選考予約・参加・通過・不合格・辞退率
・二次選考予約・参加・通過・不合格・辞退率
・最終面接参加・内定・不合格・内定承諾・内定辞退率
また、下記画像部分にも該当セルの数値が自動で入るようになっています。
採用フローを書き出し、課題を明文化する
まずは採用KPIの立て方に倣い、「WP_採用計画テンプレートシートのスプレッドシートにある選考フローの行2」を参考にして自社の採用フローを書き出します。
そして、A列の「理想の状態」「担当」「役割とスタンス」「選考官」「行動」「メモ」の欄を採用フローごとに埋め、具体的に整理します。
採用フローを具体的に書き出し、課題を明文化することで、採用活動全体の透明性と効果が大きく向上します。
さらに、数値上のボトルネックが確認された場合、その原因や課題を「選考フロー」シートに明確に記載し、具体的な改善策も併せて整理しておくことが大切です。
明文化することで、採用活動における成功パターンや失敗パターンが具体的に記録され、再発防止や改善の参考になります。また、採用チーム内や関連部署など採用活動に関わる全員が同じ基準で動くことができ、ブレのない対応が可能となります。
目標の採用KGIを入力する
「実績分析」シートの「採用目標」と記載されたオレンジ色のセルの列に、目標とするKGI、採用目標数を入力します。採用目標は各社の採用計画に合わせて、ナビサイトや合同説明会、スカウトなど想定する採用チャネルごとに入力しましょう。
書きだしたフローからKPIの歩留まりを策定する
書き出した採用フローとKGIに沿ってKPIの歩留まりをシミュレーションし、歩留まり率を策定します。
青字の「エントリー数」と「各フローの選考移行率」を入力すると、次のステップへの移行数が自動計算され、全体の歩留まりを確認できる仕様です。これにより、どの段階で候補者が減っているかが明確になり、歩留まり率の目標設定がスムーズに行えます。
実績数字と同様に、この入力をもとにKPIツリーが自動生成されるため、KPI全体の流れを一目で把握することができます。
このテンプレートは現在、基本的な選考フローで構成されていますが、各社の選考フローに応じてフローの追加も柔軟にカスタマイズ可能です。
採用KPIを立てる上でおすすめのツール
5つ目のポイントで、採用KPIを立てる上でデータの収集と分析は採用を成功させるために欠かせないとお伝えしました。。
しかし、個人情報から面接評価といった追加情報など、全てのデータを手で集めるには時間も労力もかかってしまいます。加えて、個人情報を扱うために漏えいなどのミスは許されません。
これらを解決するためにおすすめなのが、採用管理システムです。
採用管理システムは、採用媒体などの各種チャネルからデータを取り込み、データを安全に蓄積できます。
また、分析機能を有しているため、蓄積したデータを無駄なく活用できます。そのため、次年度の採用KPIの策定にも有効活用できるでしょう。
まとめ
採用KPIの立て方や作成時のポイントをご紹介いたしました。
採用KPIは採用活動を行う上で大事な指標です。そして、採用KGIを達成するための一番の近道といえます。