採用市場では新卒・中途の領域にかかわらず、社会の変化もあり採用難を極めています。
採用難の中でも採用するためにさまざまな媒体や手法が登場していますが、一つの解決策として”採用広報”も着目されています。
本記事では、採用広報の”基本”から採用広報が上手い企業の戦略の立て方、さらには成功企業の事例まで網羅的に解説します。
採用広報とは
採用広報とは、企業が求職者に向けて自社の魅力や文化、ビジョンを効果的に伝え、優秀な人材を引き寄せるために情報発信を行う活動のことを指します。
限られたリソースの中で最大限の効果を発揮するために重要な手法であり、企業によっては「採用マーケティング」とも呼びます。
主に採用広報は、企業の価値観やビジョン、職場の雰囲気、社員の声などを通じて、求職者に企業の全体像を伝え、自社を選んでもらうことを目的とします。
採用広報の目的とメリット
採用広報のメリットは多岐にわたり、採用広報を行うことの「直接的メリット」と副次的な「間接的メリット」を得ることができます。
企業が採用広報を行う直接的メリットと間接的メリットを下記にてご紹介します。
企業認知度およびブランドイメージ向上
まず1つ目の直接的メリットは、「企業認知度およびブランドイメージの向上」です。
特に中堅中小企業は、大手企業に比べて認知度が低いことが多いため、積極的な広報活動が不可欠です。採用広報を通じて、自社の存在を広く知らせることで、求職者に対してアピールすることが必要です。さらにポジティブな企業イメージを築くことで、求職者の志望度を高めることができます。
企業理解度促進
採用広報の2つ目の直接的メリットは、「企業理解度の促進」です。
企業のビジョンやミッション、職場環境、文化などを詳細に伝えることで、求職者は自分がその企業に合うかどうかを判断しやすくなります。
信頼度向上
採用広報の3つ目の直接的メリットは、「信頼度の向上」です。
情報社会が進んだ現代、求職者は企業の情報を様々な検索手段で調べています。
ネット上の情報には信頼に至らない情報も多く存在します。その中で公式として企業の情報を発信することは求職者に取って信頼できる情報であり、判断の材料となります。情報が魅力的なものであれば好感度の向上も期待できるでしょう。
競合他社との差別化
採用広報の4つ目の直接的メリットは、「競合他社との差別化」です。
採用広報を行うことで求人情報には書ききれない自社にしかない魅力や強みをアピールすることができます。発信した情報は企業の違いとして求職者に伝えることができ、加えて広報の方法は様々あるため、競合他社との差別化ができるでしょう。
エントリー数の拡大
採用広報を行った際の1つ目の間接的メリットは、「エントリー数の拡大」です。
まず採用広報を積極的に行うことで求職者の目に触れる機会が増えます。長期的な視点でみると、企業のブランド認知度が向上し、採用活動以外のビジネスにもプラスの影響を与えることができるかもしれません。このことにより企業認知度が向上し、さらにエントリー数の拡大ができる可能性もあるでしょう。
企業と候補者のミスマッチの低減
2つ目の間接的メリットは、「企業と候補者のミスマッチの低減」です。
具体的な企業情報を提供し、求職者に自社の理解を促すことで、真に企業文化や仕事の内容にマッチしている人材を採用できます。
採用広報を行うことで組織文化や働き方、現場社員の雰囲気などなかなか伝わりにくいニュアンスを伝えるサポートができるためです。
ミスマッチが低減し採用後の早期離職率が低減すると、企業の人材の定着率が上がり、企業全体の生産性も向上するでしょう。
採用コストの低減
3つ目の間接的メリットは、「採用コストの削減」です。
効果的な採用広報を行うことができると、長期的に見た際に採用コストの削減につながります。正確な情報を提供し、ターゲットとなる候補者にアプローチすることで、自社にマッチした人材が自然と集まるのであれば、無駄な媒体に投資する必要がなくなります。
採用広報を求められる背景
採用広報が求められる背景は、現代の労働市場や社会の変化に深く関連しています。以下に、その具体的な理由を解説します。
Z世代の台頭による情報収集のデジタル化
1つ目の理由は、Z世代(1990年代後半から2000年代生まれ)の台頭による情報収集がデジタル化している背景にあります。
Z世代はインターネットやSNSを駆使して情報を収集する、いわゆるデジタルネイティブ世代です。
彼らは企業の採用情報もSNSをオンラインでリサーチし、口コミやレビューも重視します。このため、Z世代を採用するに当たって企業がSNSなどを活用した採用広報を強化することは必要不可欠です。
社会的価値観・働き方の変化
2つ目の理由は、社会的価値観や働き方の変化にあります。
現代、「リモートワーク」の普及などを促したコロナ禍を経験し、働き方や社会的価値観が大きく変化しています。そこで求職者は単に給与や待遇だけでなく、企業のビジョンや文化、働き方改革への取り組みも重視しているのです。
これらの情報を適切に伝え、企業の魅力を高めるための手段として採用広報が着目されています。
人材不足による売り手市場
3つ目の理由は、人材不足による売り手市場になっているという背景です。少子高齢化も相まって多くの業界で深刻な人材不足が続き売り手市場となっています。企業は優秀な人材を獲得するために、他社との差別化を図る必要があります。
そのために採用広報を通じ、自社の魅力を効果的に伝えることが必要とされているのです。
転職潜在層へのアプローチの必要
最後の理由は、転職潜在層へのアプローチの必要性が重要視されてきたことにあります。
転職潜在層とは、現在の職場に満足していないが、積極的に転職活動をしていない求職者のことを指しています。
売り手市場が進み、さらに人材を採用することの難易度が上がりました。そのため、転職顕在層だけではなく、潜在層に対しても採用広報を行う必要が出てきました。
「企業の魅力を発信することで認知を促し、転職のタイミングで候補に上がる」という将来的な応募を促すために採用広報が注目されているのです。
採用広報戦略の進め方
採用広報を成功させるためには、体系的なアプローチを行うためにも採用広報戦略を構築することが重要です。
以下で採用広報戦略を進める際の主要なステップについて解説します。
ステップ1:ペルソナの明確化
採用広報戦略の第一歩は、理想的な候補者のペルソナを明確にすることです。ペルソナとは、企業が求める理想的な架空の候補者像を具体的に描いたものです。
採用ペルソナを作成すると、採用したい人材のイメージを解像度高く共有することができ、それを起点として採用においての指標や基準が定まります。
これには、年齢、職歴、スキル、価値観、行動パターンなどが含まれます。
ステップ2:魅力要素の整理、分解、言語化
次に行うべきは、企業の魅力要素を整理し分解して言語化することです。企業の強みや独自の魅力を具体的な言葉で表現することで、求職者に対して明確なメッセージを伝えることができます。
まずは自社の魅力と感じられる項目を全て洗い出し、グループ化します。そして曖昧な表現はそのままにせず言語化しましょう。
ステップ1で明確にしたペルソナによって訴求すべき魅力要素は異なる可能性もあるため、様々な観点から魅力を見つけておくことが重要です。
ステップ3:採用コンセプト設計
採用コンセプトの設計は、採用広報戦略の中心部分です。全ての採用活動や広報活動の基盤となります。
企業の魅力やビジョンを一貫して伝えるためのテーマやメッセージを設計しましょう。
採用コンセプトを設計する際には3C分析や4P分析を行ってみるのもいいかもしれません。
ステップ4:発信方法の決定
最後に、発信方法を決定します。採用広報の主な方法・媒体としては、オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアがあります。これらを適切に組み合わせることで、効果的な採用広報活動を展開できます。
オウンドメディア
- 例: 企業のウェブサイト、ブログ、SNSアカウント
- メリット: 企業がコントロールできるメディアで、自社のメッセージを直接伝えられる。
アーンドメディア
- 例: メディア記事、口コミ、レビュー
- メリット: 第三者の信頼性を借りて、企業の信頼性を高める事ができる。
ペイドメディア
- 例: 広告、スポンサーシップ
- メリット: 広範なリーチを得るために効果的で、短期間での影響力が大きい。
ステップ5:コンテンツを計画
発信の方法が決まると採用広報の次のステップは、具体的なコンテンツの計画です。
採用サイトの作成を例に挙げてみても、発信の仕方はブログ記事、動画、インフォグラフィックなど様々です。
方法にあった多様な形式のコンテンツを計画し、求職者に向けて発信しましょう。
ステップ6:中長期的なkpi設計
採用広報の成功を測定するためには、KPI(重要業績評価指標)の設定が不可欠です。
中長期的な視点でKPIを設計することで、採用広報活動の効果を継続的に評価し、改善していくことができます。
採用広報を進める上で抑えておきたい戦略ワンポイント
効果的な採用広報を実施するためには、いくつかの重要な戦略ポイントを押さえる必要があります。
以下でそれぞれのポイントについて詳しく解説します。
ペルソナの分析と理解
ペルソナはただ明確化するだけでなく、そのペルソナがどのカテゴリーに分類されるのかまで分析しましょう。
これにより、求職者がどのような情報を必要としているか、どのようなメッセージが響くのかを正しく把握することができます。
目的に沿ったコンテンツ作成
コンテンツ設計では特に採用広報の目的に基づいて設計することが重要です。採用広報を行って成し遂げたい目的から逸れてしまっては意味がありません。
特に企業として発信するメッセージやコンテンツは、企業のビジョンや文化、求職者に伝えたい情報に沿ったものとする必要があります。
求職者の心を掴むためには見た目のデザイン性はもちろんインパクトも重要です。しかし「伝えたいことがわかりづらい」、「本当に知りたい内容がわからない」といった候補者が求めている情報が候補者に伝わらないという状況にならないように注意して作成しましょう。
求職者の心理変化に合わせたメディア選定
求職者の心理変化に合わせて、適切なメディアを選定することが重要です。
採用広報の主なフェーズは、認知フェーズや検索フェーズ、比較検討フェーズに分けられます。そのため、それぞれのフェーズに応じたメディアを選び、効果的にアプローチしましょう。
それぞれのフェーズごとに活用媒体の例とメリットを記載しますので参考にしてみてください。
認知フェーズ
認知フェーズとは、まだ候補者が転職や就職に関して積極的に行動を起こしていない時期のことを指します。
この層には、就職活動を本格的に始める際に想起してもらえるよう、インパクトのあるコンテンツを考える必要があります。
- 活用媒体例: ソーシャルメディア広告、PR記事
- メリット: 幅広い認知度を獲得し、潜在的な求職者に企業を知ってもらうことができる。
検索フェーズ
検索フェーズとは、候補者が実際に企業の情報を探し始める段階を指します。
この時期には、候補者が自身のキャリア目標に合致する企業や職種についてリサーチを行います。求人情報サイトや企業の採用ページを見やすく整備し、候補者が必要な情報に迅速にアクセスできるようにしておきましょう。
- 活用媒体例: 採用サイト、SEO対策を施したブログ記事、詳細な求人票
- メリット: 求職者が具体的に企業情報を検索している際に、必要な情報を提供できる。
比較検討フェーズ
比較検討フェーズとは、候補者が複数の企業や職種を比較し、自分に最も適した選択肢を見極める段階を指します。この段階では、企業の強みやユニークな魅力を強調するコンテンツが必要です。このフェーズでの効果的なコンテンツは、最終的な意思決定をサポートし、候補者が自社を選択する確率を高めます。
- 活用媒体例: 従業員のインタビュー動画、企業の成功事例
- メリット: 求職者が最終的な決定を下す際に、企業の強みを強調し、選ばれる確率を高める。
現場社員を巻き込む
現場社員を採用広報活動に巻き込むことで、企業のリアルな声を伝えることができます。
もしも入社後の働く環境がイメージしていた環境と異なれば入社後のギャップによる離職に繋がります。
採用選考中、候補者は基本的に採用担当や面接官、経営者などの採用に関わる社員との接点をもちます。しかし、いざ入社となると現場に配属され、現場の社員と仕事を行っていくことがほとんどです。
そのギャップを埋めるためには、生の声を聞いてもらうことや現場社員との交流機会を作ることが採用成功への近道となるでしょう。
採用広報最新トレンド
採用において目まぐるしくトレンドが変わっていきます。
さらに、最新の情報をキャッチするのが早いZ世代を採用するには、最新のトレンドを取り入れることも非常に重要です。
これにより、求職者の関心を引きつけ、効果的にアプローチすることができます。以下では、最新トレンドについて詳しく解説します。
動画コンテンツの活用
動画コンテンツは、求職者に対して企業の魅力を直感的に伝える手段として非常に効果的です。企業紹介動画や社員インタビュー、オフィスツアーなど、様々な形式で動画を活用することで、求職者のエンゲージメントを高めることができます。
採用広報記事の発信
ブログやニュース記事など、採用広報に関する記事を定期的に発信することも重要です。
これにより、企業の最新情報や採用に関する考え方、どのような人物が働いているのかなどを求職者に伝えることができます。
採用オウンドメディアでの発信
オウンドメディアは、企業が自らのプラットフォームで情報を発信する媒体のことを指します。企業のウェブサイトや専用の採用ページなどを活用して、自社の魅力を効果的に伝えましょう。
SNSでの発信
SNSは、現代の採用広報において欠かせないツールです。LinkedIn、Facebook、X、Instagramなどのプラットフォームを活用して、企業の情報をリアルタイムで発信します。
成功コンテンツの事例
採用広報において成功している企業の具体例を知ることで、自社の採用活動に役立つヒントを得ることができます。ここでは、スタートアップ企業が取り入れやすいコンテンツとブログネタについてご紹介します。
スタートアップ企業が取り入れやすいコンテンツ
スタートアップ企業は、限られたリソースの中で効果的な採用広報を行うことが求められます。成功しているスタートアップの事例として以下のコンテンツが取り入れられています。
社員のインタビュー動画やインタビュー記事
社員のインタビュー動画やインタビュー記事を通じて、企業文化や働き方をリアルに伝えています。
例: 「社員の日常」や「社員の一日のスケジュール」、「プロジェクトの裏側」といった仕事を紹介する。
トレンドの音源を使った動画コンテンツ
視覚的に魅力的でユニークなコンテンツを作成し、SNSで拡散します。バズり中の音源などを活用することで、ただ単に求人広告を行っているだけでは出会えない様々なターゲットに閲覧される可能性もあります。
記事ブログネタ
記事ブログは、採用広報の中でも注目のコンテンツの1つです。
ブログネタの例を以下に記載します。
- 社員インタビュー:
- 現場で働く社員の声を伝え、リアルな職場の雰囲気や仕事のやりがいを紹介する。
- 例: 「新卒社員が語る、入社1年目のリアル」や「入社3年目の1日スケジュール」
- 企業のビジョンとミッション:
- 企業が目指す方向性や社会的な使命を詳しく説明し、共感を呼び起こす。
- 例: 「私たちのビジョン:未来の働き方を変える」
- 業界トレンドと企業の取り組み:
- 最新の業界トレンドやそれに対する企業の取り組みを紹介する。
- 例: 「DX時代における当社のチャレンジ」
効果的な採用広報のためのツール/サービス
採用広報を効果的に行うためには、適切なツールやサービスを利用することをおすすめします。
以下では、採用サイト作成ツールと採用管理システムについてご紹介します。
採用サイト作成ツール
採用サイトは、求職者にとって企業の第一印象を決定づける重要な要素です。採用サイト作成ツールを活用することで、魅力的で使いやすいサイトを構築することができます。
メリット:
- 簡単にプロフェッショナルなデザインのサイトを作成できる。
- モバイル対応やSEO最適化など、最新のウェブ標準に準拠。
- 例: Wix、Squarespace、WordPressの採用テンプレート。
採用管理システム
採用管理システム(ATS)は、採用プロセス全体を効率化するためのツールです。
応募者のデータ管理や面接日程調整、選考フローの状況確認などを一元管理できます。
- メリット:
- 応募者データを一元管理し、迅速な対応が可能。
- 自動化された選考プロセスにより、効率が向上。
まとめ
採用難が深刻化している現在、様々な解決手法が試されています。
本記事では、その中の1つである採用広報について解説いたしました。
採用広報は効果が出るまでに時間がかかりますが、「人材の獲得」だけではなく「人材の定着」や、ゆくゆくは「企業全体のイメージアップ」などのメリットを感じることができるでしょう。自社に合った採用広報の手法を選択し、根気強く長期的に取り組みましょう。