自社に必要な人材に選ばれる企業になるため、昨今では「採用マーケティング」という考え方が重要視されています。この記事では、そもそも「採用マーケティング」とは?といったところから実際にどのような行程を踏んでいけばよいのかなど記事を読了した後に採用マーケティングの施策を開始できるよう詳細にご紹介します。
現状の採用活動をアップデートするためにも、「採用マーケティング」の考え方を取り入れ、自社のターゲットとなる候補者に認知してもらい、ファンになってもらうための仕掛け作りをしましょう。
採用マーケティングとは
「採用マーケティング」とは、マーケティングの概念を採用活動に適用した考え方のことを指します。採用ターゲットの認知獲得や志望度醸成のために、求める情報を解明し、提供するといったような方法で実行していきます。人材獲得競争が激化している昨今、現状を打破するための新たな採用の考え方として注目されています。
また、新型コロナウイルスの流行に伴い採用活動のオンライン化が加速したことで、より採用マーケティングが実施しやすい環境になってきているとも言えます。これはオンライン化によって、Googleアナリティクス等を活用して採用ターゲットの行動履歴データの獲得がしやすくなったことが背景にあります。採用マーケティングの考え方を実行するためには、データを活用して採用ターゲットのニーズを把握し、それをもとに採用活動を見直すというようなPDCAをまわしていく必要があります。では、実際にマーケティング活動のやり方に沿って採用マーケティングについてより詳しくご説明していきます。
採用ブランディングとの違い
採用マーケティングとしばしば比較される言葉として「採用ブランディング」が挙げられます。採用ブランディングとは、企業が理想とする人材を獲得するために、自社の魅力や企業文化、働く環境などを社外へ向けて継続的に発信し、「この会社で働きたい」という魅力的なブランドイメージを求職者の心に築き上げる活動を指します。これは、自社の提供する商品やサービスの情報だけでなく、企業としての理念や社会に対する想い、大切にしている価値観といったストーリーを前面に押し出し、求職者に特定の企業イメージを想起させることを目指すものです。
一方、採用マーケティングは、採用ブランディングで構築した企業イメージを土台としつつ、より広範な視点から採用活動全体を戦略的に設計・実行する点で異なります。採用ブランディングが主に「どのように見られるか」というイメージ構築に重点を置くのに対し、採用マーケティングでは、ターゲットとなる求職者層の動向分析、競合他社の採用戦略の把握、そして自社の採用課題の明確化といった相対的な分析に基づき、採用プロセス全体の最適化を図るのです。
採用マーケティングが注目される背景
従来の採用活動は「応募してくれた人の中から選ぶ」ことが普通でした。ただし、売り手市場の採用マーケットの中で、顕在層だけを狙うこの手法のみでは、優秀な人材の獲得が難しいのが現状です。そこで注目され始めたのが、転職潜在層・就職活動前の学生もターゲットにした採用戦略です。
労働人口の減少と採用競争の激化
労働人口減少はこれまでも指摘されてきた事ですが、2020年は新型コロナウイルスの流行もあって例年以上に優秀層の人材獲得競争が激化しています。自社に必要な人材を獲得するためには、転職潜在層を含めた戦略的アプローチが必要なのです。
価値観・採用手法の多様化
人材を獲得するための難易度が高まる中、求職者の価値観も多様化し、それに伴い採用手法も多様化しています。従来は就活サイトや転職サイトを利用した応募が一般的でしたが、SNSやイベントを通して求職者に直接アプローチをするダイレクトリクルーティングやリファラル採用などの手法も登場しています。それぞれの候補者が重視する点について理解した上で、採用手法を選択し、自社の魅力をコミュニケーションしていく必要があります。
新卒採用の早期化・長期化
最後に、新卒領域で採用マーケティングが注目される背景の一つに、採用活動の「早期化」と「長期化」が挙げられます。実際に、大学3年生の段階で内定を得る学生も珍しくなく、企業によっては通年採用を導入したり、年に複数回の採用機会を設けたりする動きが加速しています。
このような状況は、従来の「採用時期が来たら一気に採用広告を出す」といった画一的な手法では、学生との接点を持つ前に採用競争が終結してしまうリスクを示唆しています。企業側には、より早い段階から学生とのコミュニケーションを開始し、学年や個々の状況に合わせて継続的に情報を届け、関係性を深めていく、まさに採用マーケティングの視点に立ったエンゲージメント戦略が不可欠です。
採用マーケティングを行うメリット
それでは、採用マーケティングの考え方を取り入れることでどのようなメリットがあるのでしょうか?5つのメリットをお伝えいたします。
応募数増加
1つ目のメリットは、応募数の増加を見込める点です。従来の採用活動では、主に転職や就職を積極的に考えている顕在層へのアプローチが中心でした。しかし、採用マーケティングでは、まだ具体的な転職・就職活動を始めていない潜在層や、過去に何らかの接点があったものの採用には至らなかった人材、さらには自社の元従業員なども含め、より広範なターゲットに目を向けます。そして、自社の理念や文化、働く魅力などを明確に定義し、ターゲットに響く形で継続的に発信していきます。この情報発信が求職者に受け入れられれば、数ある企業の中から自社を選んでもらう強力な動機付けとなり、他社との明確な差別化が図れるためです。
コスト管理がしやすく低コスト化をはかることができる
2つ目のメリットは、コスト管理がしやすく低コスト化をはかることができる点です。経路ごとの実績やコストをしっかりとデータ管理する必要があるので、結果的にコスト管理がしやすくなります。また、ターゲティングしたうえで適切なチャネルを活用してアプローチしていくため、人材の定着率向上や採用広告費の削減が見込め、低コスト化を図ることができます。
入社後の活躍まで見通したマッチングができる
3つ目のメリットは、入社後の活躍まで見通したマッチングができる点です。採用ターゲットやペルソナ設定をする際に、自社で定着、活躍する人材はどのような人物か明確にすることで、ミスマッチの少ない採用活動が可能になります。これに加えて、自社の魅力やリアルをしっかりと知ってもらうことで、採用した人材の早期離職も起こりにくくなり、入社後の活躍まで見通したマッチングを可能にします。
他社に負けない採用戦略を描くことができる
4つ目のメリットは、他社に負けない採用戦略を描くことができることです。「どのような企業が採用競合となるのか」「採用競合はどのような採用活動をしているのか」等を考慮しながら採用活動の戦略を練っていく必要があります。さらに、自社の魅力を採用ターゲットの求めるタイミングで示していく仕組み作りができるので結果として他社に負けない採用戦略を描くことができます。
潜在的なターゲット層への認知を増やすことができる
5つ目のメリットは、将来的な採用候補者となり得る潜在的なターゲット層への企業認知を効果的に広げられることです。すぐに転職を考えていなくても、多くの人が日常的に情報収集を行っています。採用マーケティングでは、このような転職潜在層に対しても、企業のビジョンや働く環境、社員の活躍といった魅力的な情報を戦略的かつ継続的に発信していきます。いわば将来の採用に向けた「種まき」とも言えます。今は自社に無関心であったり、存在自体を知らなかったりする人々に対しても、有益な情報提供を通じて徐々に興味関心を喚起し、「あの会社は面白そうだ」「機会があれば働いてみたい」といったポジティブな印象を育んでいきます。認知度を高め、ある種の「ファン」を増やしておくことは、実際に求人が発生した際に、候補者に自社を第一想起してもらえる可能性があります。
採用にマーケティング思考を取り入れるためのポイント
本章では採用活動にマーケティング思考を取り入れるためのポイントについて3つ紹介いたします。
フレームワークを活用する
採用活動にマーケティング思考を効果的に取り入れるためには、まずフレームワークの活用が鍵となります。フレームワークとは、複雑な事象を整理し、分析や戦略立案を助けるための思考の枠組みです。採用マーケティングにおいても、3C分析やSWOT分析、ペルソナ設定、カスタマージャーニーマップといったマーケティング分野で用いられる多様なフレームワークを応用することで、自社の採用状況を客観的に把握し、課題を明確化することができます。
例えば、ターゲットとなる人材像(ペルソナ)を具体的に設定するフレームワークを用いれば、どのような層にどのようなメッセージを届けるべきかという採用戦略の軸が定まるでしょう。
採用ファネルに基づいた施策を行う
採用マーケティングの考え方を実践する上で、「採用ファネル」を理解し、それに基づいた施策を展開することは非常に重要です。採用ファネルとは、求職者が企業を認知し、興味・関心を持ち、応募・選考を経て実際に入社するまでの一連のプロセスを、段階的に漏斗(ファネル)のような形で可視化したものです。一般的には、「認知」「興味・関心」「応募」「選考」「内定・承諾」「入社後・定着」といったフェーズに分けられます。
この各ファネル(段階)において、求職者がどのような情報を求め、どのような心理状態にあるのかを把握し、それぞれの段階に応じた適切なアプローチを行うことが採用成功の鍵となります。例えば、「認知」段階ではまず自社を知ってもらうための情報発信が、「興味・関心」段階では企業の文化や働く魅力をより深く伝えるコンテンツが必要です。採用ファネルを意識することで、どの段階で候補者の離脱が多いのかといった課題点が明確になり、それぞれのボトルネックに対して集中的な改善策を講じることができるでしょう。
採用担当がマーケティング力を身につける
採用マーケティングを効果的に推進するためには、採用担当者自身がマーケティングに関する知識やスキルを積極的に身につけることが不可欠です。従来の採用業務は、候補者との面談や説明会の実施といった対面でのコミュニケーションが中心でしたが、採用マーケティングにおいては、より戦略的な視点と多角的なスキルが求められます。
具体的には、市場や競合の動向を分析する力、ターゲットとなる人材像を明確に定義し、そのペルソナに響くメッセージを考案する力、そしてそのメッセージをブログ記事やSNS、動画といった様々なチャネルを通じて効果的に発信するコンテンツ企画力や運用能力などです。また、ウェブサイトのアクセス数や応募率、選考通過率といったデータを収集・分析し、施策の効果を測定して改善につなげるデータドリブンな思考も重要になります。もちろん、これらのスキルを最初から完璧に備えている必要はありません。研修への参加や専門書籍での学習、あるいはマーケティング部門との連携を通じて、段階的にマーケティング力を高めていくことが、採用マーケティング成功への確実な一歩となるでしょう。
採用マーケティングを行うための流れ
それでは、実際にどのような段取りで採用マーケティングを行えばよいのでしょうか?
自社を分析・理解する
採用マーケティングを成功させるための最初のステップは、自社について深く分析し、その本質を正確に理解することです。なぜなら、採用マーケティングの核心は、「自社の何を、誰に、どのように伝えるか」という問いに答えることにあり、その「何を」にあたる企業の魅力を明確に定義することが不可欠だからです。「うちの会社に特別な魅力なんてない」と感じる採用担当者の方もいるかもしれませんが、どのような企業にも、特定の求職者にとっては魅力的に映る独自の価値や文化が存在します。多くの場合、それらが上手く言語化されていないのです。
自社分析では、経営理念や事業戦略、提供しているサービスや製品といった基本的な情報はもちろんのこと、社風、組織文化、働く環境、評価制度、キャリアパス、社員の個性や価値観といった、より内面的な要素まで掘り下げていきます。市場における自社の立ち位置や競合との違い、顧客に提供している価値、そして社会に対してどのような貢献を目指しているのかといった視点も重要です。これらの要素を多角的に洗い出し、客観的に評価することで、採用ターゲットに響く真の魅力を見つけ出し、効果的な採用メッセージの土台を築くことができます。
採用ターゲットとペルソナを設定
まずはじめに、採用ターゲットの見直しをしていきます。
ただし、求める人物像といったざっくりとしたものではなく、マーケティングにおける「ペルソナ」(マーケティング用語で、理想の顧客像のこと)を意識して、実際に存在しそうな一人の人間として設定していきます。社内で高い業績やパフォーマンスを上げている人材を分析し、自社の採用戦略に基づいたペルソナを設定すると良いでしょう。
採用したいターゲットをより明確化し、実在する一人の人物をイメージして行動や思考を分析することで、その人物を採用するための採用手法が考えやすくなります。
採用ペルソナとは?採用ペルソナ設計のポイントとテンプレート事例も紹介
カスタマージャーニーを設計
自社の分析と並行して進めたいのが、ターゲットとする求職者(ペルソナ)がどのような思考や行動を経て自社と出会い、関心を深め、最終的に入社を決意するのか、その一連の体験を具体的に描き出す「カスタマージャーニー(採用においてはキャンディデイトジャーニーとも呼ばれます)」の設計です。これは、単に採用プロセスを整理するだけでなく、求職者の視点に立って、各接点(タッチポイント)での感情の動きや情報ニーズを時系列で可視化する試みです。
例えば、求職者が最初にどのようなきっかけで自社を認知し(例:SNS広告、知人の紹介)、次にどのような情報を求めてウェブサイトを訪れ、説明会に参加し、面接を経て内定に至るのか。そして、それぞれの段階でどのような期待や不安を感じるのかを詳細にマッピングします。このカスタマージャーニーを設計することで、企業側がどのタイミングで、どのような情報を提供し、どのようなコミュニケーションを取るべきかが見えてくるでしょう。
ファネルに応じたチャネルを設定
カスタマージャーニーで描いた求職者の行動と感情の動き、そして採用ファネル(認知、興味・関心、応募、選考といった段階)を照らし合わせながら、次に重要となるのが、各段階で最適な情報発信チャネルを選定し、設定することです。採用マーケティングでは、求職者とのあらゆる接点がコミュニケーションの機会となり得るため、それぞれのチャネルの特性を理解し、戦略的に活用する必要があります。
例えば、企業の「認知」を広げたい初期段階では、幅広い層にリーチできる求人広告媒体、企業のSNSアカウント、あるいはプレスリリースなどが有効でしょう。一方、企業への「興味・関心」を高め、より深い理解を促す段階では、企業のビジョンや文化、社員の働きがいなどを詳細に伝える自社の採用サイト、オウンドメディア(ブログ記事や導入事例)、オンライン説明会やウェビナーなどが適しています。さらに、具体的な「応募」や「選考」の段階では、ダイレクトリクルーティングツールや、きめ細かいコミュニケーションが可能なメール、チャットツールなどが活用できます。
コンテンツを企画
採用マーケティングの具体的な実行フェーズにおいて中核をなすのが、設定したチャネルを通じてターゲットに届ける「コンテンツ」の企画と制作です。ここで言うコンテンツとは、自社の魅力や企業文化、ビジョン、働く環境、社員の生の声などを、求職者の興味やニーズに合わせて様々な形式で表現した情報全般を指します。単に求人情報を掲載するだけでなく、求職者の心に響き、行動を促すような質の高いコンテンツが求められます。
例えば、企業のミッションやバリューを伝えるストーリー記事、社員の一日を追ったドキュメンタリー動画、特定の職種の仕事内容やキャリアパスを解説するブログ、社内の雰囲気が伝わる写真やインフォグラフィック、あるいは業界のトレンドや専門知識を提供するウェビナーなども有効なコンテンツです。
データ分析〜改善
採用マーケティングを実施するには、データの分析による採用活動の改善が必要です。
下記の2種類の項目で分析をしていくことをお勧めしています。
①数値的な分析
各プロセスの推移やエントリー経路別の分析など数値で確認できる情報を分析します
採用活動全体の経年比較分析
エントリー数、説明会参加数、内定数、内定承諾数、入社数などで比較することで、採用活動全体の変化をつかむことができます。
歩留まり分析
エントリ-、説明会予約、説明会参加、面接、内定出し、内定承諾、内定辞退などのプロセスを全体、職種別、エリア別、時期で分析し、採用活動のボトルネックを発見します。
応募経路分析
ナビサイト、イベント、インターンシップ、自社の採用ホームページ、大学の就職課、ダイレクトリクルーティング、リファラルなどそれぞれのエントリー経路別でのエントリー数や移行率を分析し、次年度以降どのエントリー経路に予算を投下すべきか判断することができます。
②実質的な分析
数値的な分析からは読み取れないような傾向をアンケートやヒアリングから分析します
応募動機の傾向分析
候補者の応募動機を分析することで、自社の魅力や説明会での訴求ポイントを具体的に把握することができます。ⅲと組み合わせると、前年の内定承諾者の多くが挙げていた応募動機と似た傾向を持つ候補者には優先度を上げてアプローチするなど採用戦略を立てやすくなります。
説明会での質問分析
候補者からの質問を分析することで、説明会や選考で魅力訴求できていなかった点や本当に知りたい情報を知ることができ、その後の選考の改善につなげることができます。
内定承諾/辞退者分析
内定承諾者と内定辞退者の傾向を自社で把握しておくことで、自社とマッチしやすい人物像を把握できます。
採用活動で分析するべき項目と分析方法についてご紹介
採用マーケティングに活用できるフレームワーク6選
採用マーケティングにおいて外部環境と自社の状況を的確に把握するために活用される代表的なフレームワークを6つ紹介いたします。
3C分析
「3C分析」では、通常マーケティングで用いられる「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から分析を行いますが、採用マーケティングでは「Customer(顧客)」を「Candidate(候補者・求職者)」に置き換えて考えます。
まず「Candidate(候補者)」の分析では、ターゲットとする人材がどのような価値観を持ち、企業選択において何を重視するのか、転職市場全体の動向や候補者のインサイトを深く掘り下げます。次に「Competitor(競合)」分析では、同じ人材層を獲得しようとしている他の企業がどのような採用戦略を打ち出し、どのような強みや待遇を提示しているのかを調査し、自社との比較を行います。そして最後に「Company(自社)」分析では、自社の企業理念、文化、働く環境、強みや弱みといった内部環境を客観的に評価します。
4C分析
3C分析が企業を取り巻く環境と自社の位置づけを把握するのに役立つのに対し、「4C分析」はより候補者視点に立って採用戦略を練るためのフレームワークです。ここでの4つの「C」は、「Customer Value(顧客価値)」、「Cost(顧客コスト)」、「Convenience(利便性)」、「Communication(コミュニケーション)」を指し、採用マーケティングにおいては「Customer」を「Candidate(候補者)」と読み替えます。
「Candidate Value(候補者にとっての価値)」では、候補者が自社で働くことにどのような価値やメリットを見出せるのか、キャリアアップの機会、やりがい、成長環境などを明確にします。「Cost(候補者にとってのコスト)」では、候補者が応募や入社にあたって感じるであろう時間的・金銭的・心理的な負担やリスクを洗い出し、それらを軽減する方法を考えます。例えば、選考プロセスの煩雑さや、提示する待遇面での懸念などがこれにあたります。「Convenience(候補者にとっての利便性)」では、応募方法の簡便さ、選考スケジュールの柔軟性、オンライン面接の導入など、候補者がストレスなく採用プロセスに参加できる環境を整備します。そして「Communication(候補者とのコミュニケーション)」では、候補者との接点において、いかに効果的で魅力的な情報提供や対話ができるかを追求します。
SWOT分析
「SWOT分析」は、自社の内部環境と外部環境を多角的に評価し、戦略立案に役立てるためのフレームワークです。「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの頭文字を取ったもので、採用マーケティングにおいては、これらを自社の採用力や採用市場の状況に置き換えて分析します。
「Strength(強み)」では、自社の企業文化、ブランド力、技術力、福利厚生など、採用において競合他社よりも優位な点を洗い出します。「Weakness(弱み)」では、逆に採用における課題や改善すべき点、例えば認知度の低さや特定の職種での採用ノウハウ不足などを客観的に把握します。これらは自社の内部環境の分析です。一方、「Opportunity(機会)」では、採用市場の拡大、新たな採用チャネルの出現、法改正による追い風など、自社の採用活動にとってプラスに働く可能性のある外部環境の変化を捉えます。「Threat(脅威)」では、少子高齢化による労働力不足、競合の採用強化、経済状況の悪化など、採用活動における障壁となり得る外部環境のマイナス要因を特定します。
STP分析
「STP分析」は、効果的なマーケティング戦略を策定するための基本的なフレームワークであり、採用マーケティングにおいても非常に有効です。STPとは、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の3つのステップの頭文字を指します。この分析を通じて、多様な求職者の中から自社が本当に必要とする人材層を見極め、その層に対して最も響くメッセージを届け、自社の魅力を明確に打ち出すことを目指します。
最初の「Segmentation(セグメンテーション)」では、求職者市場を様々な切り口で細分化します。例えば、経験年数、スキル、専門分野、価値観、キャリア志向、ライフスタイルといった軸でグループ分けを行います。次に「Targeting(ターゲティング)」では、細分化されたセグメントの中から、自社の経営戦略や事業計画、求める人物像に照らし合わせて、最も注力すべきターゲット層を選び出します。最後に「Positioning(ポジショニング)」では、選定したターゲット層に対して、競合他社と比較した際に自社がどのような独自の価値や魅力(例えば、挑戦的な社風、専門性が高まる環境、ワークライフバランスの充実など)を提供できるのか、その企業としての立ち位置を明確にし、訴求ポイントを定めます。
PEST分析
「PEST分析」は、企業を取り巻くマクロな外部環境が、現在および将来の事業活動にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークです。「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの要因の頭文字を取ったもので、採用マーケティングにおいては、これらの大きな環境変化が採用市場や自社の採用戦略に与える影響を中長期的な視点で考察する際に役立ちます。
「Politics(政治)」では、労働関連法規の改正、政府の雇用政策、国際情勢などが採用活動に与える影響を分析します。「Economy(経済)」では、景気動向、金利、為替レート、経済成長率などが、企業の採用意欲や求職者の転職動向にどう作用するかを見ます。「Society(社会)」では、人口動態の変化(少子高齢化など)、働き方の多様化、ライフスタイルの変化、教育水準、社会的な価値観の変容などが採用ターゲットや働き手のニーズに与える影響を考察します。「Technology(技術)」では、AIやDXの進展、新たなコミュニケーションツールの登場、オンライン採用技術の進化などが、採用手法や求められるスキルにどのような変化をもたらすかを分析します。
採用ファネル
「採用ファネル」は、求職者が企業を認知してから実際に入社し、戦力として定着・活躍するまでの一連のプロセスを、段階的に絞り込まれていく漏斗(ファネル)の形で可視化するフレームワークです。このファネルの各段階における候補者の数や移行率を分析することで、採用プロセスのどこに課題があるのかを特定し、改善策を講じるのに役立ちます。
一般的な採用ファネルの段階としては、「認知」(企業名や求人を知る)、「興味・関心」(企業や仕事内容に魅力を感じる)、「応募」(実際に選考に進む意思を示す)、「選考」(書類選考や面接を受ける)、「内定・承諾」(企業からのオファーを受け入れる)、「入社」(企業の一員となる)、そして「定着・活躍」(入社後に能力を発揮し、組織に貢献する)などが挙げられます。企業は、各段階で候補者がどのような情報を求め、どのような体験をしているのかを理解し、それぞれのフェーズに応じた適切な情報提供やコミュニケーション戦略を設計する必要があります。例えば、認知段階では魅力的な企業情報の発信、興味・関心段階では具体的な仕事内容や社風の紹介、選考段階ではスムーズで丁寧な対応が求められます。
採用マーケティングにオススメの手法6選
1.Wantedly
採用マーケティングにおいて、企業の「共感」を軸としたアプローチを可能にする代表的な手法の一つが、ビジネスSNSの「Wantedly」です。このプラットフォームは、従来の求人情報にありがちな給与や待遇といった条件面よりも、企業が掲げるミッションやビジョン、独自のカルチャー、そして働く人々の想いに焦点を当て、求職者との価値観のマッチングを重視しています。企業は、ブログ形式の「ストーリー」機能などを活用して、自社の成り立ちや事業にかける情熱、社員の働きがいや日々の様子といった、求人票だけでは伝えきれないリアルな魅力を多角的に発信することができます。
2.オウンドメディア
採用マーケティング戦略において、中長期的な資産となるのが「オウンドメディア」、すなわち自社で企画・運営する採用に特化したウェブサイトやブログです。オウンドメディア最大の強みは、外部のプラットフォームの制約を受けることなく、企業が伝えたいメッセージや世界観を自由な形式で、かつ深く掘り下げて発信できる点にあります。社員インタビューを通じて多様な働き方やキャリアパスを紹介したり、開発秘話やプロジェクトストーリーを通じて仕事のやりがいを伝えたり、企業文化や福利厚生、社内イベントの様子などを詳しく紹介することで、求職者の企業理解を促進し、働くイメージを具体的に想起させることができます。
3.Hubspot
「Hubspot」に代表されるMA(マーケティングオートメーション)ツールは、元々は製品やサービスの販売促進を目的としたマーケティング活動を効率化・自動化するためのものですが、その多機能性は採用マーケティングにおいても非常に有効に活用できます。これらのツールを導入することで、採用候補者一人ひとりの情報を一元的に管理し、それぞれの興味や関心の度合いに応じたメルマガ配信などが可能です。
4.SNS
Twitter(X)、Instagram、Facebook、LinkedInといったソーシャルネットワーキングサービス(SNS)は、現代の採用マーケティングにおいて欠かせない手法の一つとなっています。多くの人々が日常的に利用しているこれらのプラットフォームは、情報が瞬時に共有・拡散される可能性を秘めており、幅広い層の潜在的な候補者に対して、企業の認知度を飛躍的に高めることができます。特に、画像や動画を効果的に活用することで、オフィス環境や社員の雰囲気、社内イベントの様子といった、文章だけでは伝えきれない企業のリアルな魅力を直感的に伝えることが可能です。
5.note
コンテンツプラットフォームである「note」は、企業が自社の思想やストーリー、働く人々の想いを深く、そして自由に発信できる場として、採用マーケティングにおいても注目されています。一般的な求人媒体やSNSとは異なり、noteは長文のテキストコンテンツを中心に、画像や音声、動画などを組み合わせた多様な表現が可能であり、企業の理念やビジョン、製品やサービスにかける情熱、社員のインタビュー、企業文化といった、より深掘りした情報を候補者に届けるのに適しています。無料ではじめることができ、採用サイトの役割を果たすことも可能です。
参考詳細:https://pro.lp-note.com
6.採用一括かんりくん
「採用一括かんりくん」に代表される採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)は、煩雑になりがちな採用業務を効率化し、採用マーケティング活動の質を高める上で非常に重要な役割を担います。これらのシステムは、複数の求人媒体や自社の採用サイトからの応募者情報を一元的に集約・管理する基本機能に加え、選考プロセス全体の進捗状況を可視化し、関係者間での情報共有をスムーズにします。採用マーケティングの観点からは、ATSは貴重な候補者データの宝庫です。応募者の属性、応募経路、選考段階ごとの通過率や離脱理由といったデータでセグメントを分け、LINEでコンテンツ配信をするなども可能になります。
採用ファネルごとの具体的採用マーケティング施策
それでは、実際にフレームワークを活用し、どのような施策を打つべきなのか、採用ファネルを用いて紹介します。
認知(潜在層=転職潜在層・就職活動前の学生)
認知段階では、就職・転職意思の有無に関わらず、自社のターゲットに会社を知ってもらうことを目指します。入社意思のない段階から会社を知ってもらうことで、本格的に就職活動(転職活動)を始めた際の候補に入りやすくなるのです。
この段階では、あくまで潜在層をターゲットにしているので、FacebookやTwitterといったようなSNS等での情報発信、イベント出展などで、まだ求職活動をしていない人と接触できる手法が効果的です。
興味(顕在層=転職顕在層・就職活動生)
興味段階では、実際に就職(転職)活動をしている求職者がターゲットになります。働く場所としての魅力を発信することにより、就職・転職先として興味を持ってもらいます。具体的には、求人媒体やエージェントの活用はもちろん、SNSや自社採用サイト、会社説明会の開催を通して、自社の求人内容や組織風土などの企業情報の発信をしていきます。
比較・検討
比較・検討段階では、自社の選考を受けてくれた候補者に対し、魅力付けや採用競合との差別化を図り、その他の採用競合の中から選んでもらうための施策を打ちます。
新卒・中途問わず、求職者は複数の会社を並行して選考を受けています。実際に、2021年卒の学生に至っては、4人に1人が複数社に内定承諾し、内定式後に入社企業を決定するというデータもあるので※1、選考過程でいかに入社意向を高めるかが重要になります。
そのために、現場社員との面談でやオフィス見学の機会を設けるなどして、職場の様子や具体的な仕事内容、キャリアパス、一緒に働く社員の人柄を知ってもらい、入社後の活躍イメージを沸かせてあげられるようにしていきます。
決定
最終段階では、自社の求める人材に内定を承諾してもらい、就職・転職先として選ばれることが最終段階の目的です。この段階の目標は「入社したい」と思わってもらうこと。つまり採用候補者に、内定を承諾してもらい、最終的な転職・就職先として選ばれることにあります。
個人に合わせた情報提供を心がけ、候補者の懸念点を取り除き納得して入社してもらえるように内定者フォローを行いましょう。
※1 株式会社MyRefer
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000036924.html
まとめ
採用マーケティングは、自社に必要な人材に選ばれるために必須の考え方。
入社してほしい人材を明確化し、企業側から積極的にアプローチし、入社してもらうための攻めの採用戦略ともいえます。採用活動のアップデートのため、是非採用マーケティングの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか?