拡大する通年採用の企業側メリット・デメリットを紹介

 新型コロナウイルスの流行に伴い、多くの企業が採用活動の後ろ倒しを余儀なくされています。9月入学もしくは9月卒業を後押しする声も上がっている中、今後さらに通年採用の動きは加速していくものとみられます。そうはいっても、従来の一括採用から急に通年採用へとシフトするのは人事の皆様にとって非常に負担が大きいのではないでしょうか?今回は、通年採用が広まる背景から通年採用のメリット・デメリット、通年採用を成功させるためのポイントについてお伝えします。

そもそも通年採用とは

通年採用とは

 通年採用とは、企業が年間を通して新卒・中途にかかわらず、必要に応じて採用活動を行うことです。日本では従来、春に新卒者を一括採用する新卒一括採用が主流でした。これは、1923年の関東大震災がきっかけと言われています。これまで、新卒一括採用の手法がとられてきたのは、採用活動が学業の妨げとならないように、経団連(日本経済団体連合)が就職協定によって採用活動解禁時期などを制限していたためです。

 しかしながら、留学生や帰国子女など多様化するグローバル人材の必要性が高まっていることや新卒採用の難易度が上がり採用予定人数を満たすことが容易でない現状から、近年通年採用が注目を集めるようになってきています。

一括採用との違いは?

通年採用と一括採用には以下のような違いがあります。

通年採用 一括採用
特徴 年間を通して採用活動を行う 経団連の協定に従って一括で採用を行う
採用活動時期 通年 解禁日から約半年
留学生や帰国子女の対応 対応しやすい 対応が難しい

通年採用と一括採用の年間スケジュールのイメージは以下の通りです。

<通年採用のスケジュール>

<一括採用のスケジュール>

通年採用の現状

 2020年6月に就職みらい研究所が発行した『就職白書2020(冊子版)』http://data.recruitcareer.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/hakusyo2020_01-48_up-1.pdfによると、2020年卒採用において通年採用を実施したと回答した企業が17.5%。2021年卒採用において通年採用を実施予定と回答した企業は25.1%となっており、全体の4分の1を占める企業が通年採用を推し進めようと動き出してるようです。

通年採用の背景

 『就職白書2020(冊子版)』ではさらに、2020年卒採用での実施率よりも高く、かつ差が大きかったものとして

・大学・大学院卒業後3年以内の既卒者の採用(20年卒差14.1ポイント増)

・採用直結と明示したインターンシップからの採用(8.8ポイント増)

・海外の大学・大学院を卒業する日本人留学生の採用(8.7ポイント増)

が挙げられています。人員確保の手段として卒業後3年以内の既卒者(第二新卒)や帰国子女の採用に注目が集まっていることや、採用活動の早期化に伴い採用直結と明示したインターンシップの実施等が通年採用を推し進める背景となっています。

経団連との関係

 2019年4月、経団連は「採用と大学教育の未来に関する産学協議会/中間とりまとめと共同提言」<採用と大学教育の未来に関する産学協議会/中間とりまとめと共同提言(経団連)>https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/037.html において、新卒学生の通年採用を拡大する方針を発表しました。従来の一括採用に加えて、在学中に専門分野を学ぶ学生やインターンに参加した学生たちを卒業後に選考するなど、複線型の採用を進めるというものです。

 このような経団連の後押しもあり、グローバルな人材獲得競争やジョブ型雇用への移行が進み、通年採用の導入待ったなしの状況になっていくと考えられます。

通年採用のメリット・デメリットは?

 ここからいよいよ、企業側にとっての通年採用のメリットとデメリットについてまとめていきます。

メリット

①留学生や帰国子女など一括採用では出会いづらい学生に接触できる

 一括採用では出会うことが難しかった留学生や帰国子女など、日本の大学とは卒業のタイミングが違う人材も採用することができます。その他にも、それぞれの学生の事情に合わせた採用スケジュールで動くことができるのでインターンに参加していた学生や専門分野をしっかりと学んできた学生にも対応することが可能です。

②必要な時に必要な人材を採用できる

 採用期間や採用枠数にとらわれずに採用活動ができるので必要な時に必要な人材を採用することができます。

③入社時のミスマッチを減らすことができる

 スケジュールに縛られた採用活動をする必要がないので一括採用よりも一人一人の応募者と向き合うことができます。本当に自社にマッチしていると思える学生を見極めて採用することができますし、学生側もじっくりと相互理解を深めたうえで納得して内定を承諾することができるので、承諾後辞退も減らすことができます。

デメリット

①採用の多様化・長期化に伴い、採用担当者の負担が増えてしまう

 様々な学生の事情に合わせた採用活動の必要があるため、必然的に採用担当者の負担は増えてしまいます。

②通年採用を実施するための環境を整える必要がある

 時期を問わず採用担当者以外の社員の協力を仰ぐことや、情報共有の仕組みを整えておく必要があります。

③一括採用以上に採用コストがかかる

 場合によっては、常時ナビサイトへの掲載やイベントへの参加の必要があるので一括採用よりもコストがかかる可能性があります。

通年採用を検討するときの事前準備

 では、通年採用を検討するとき、どのような事前準備をしておけば通年採用を成功させることができるのでしょうか?以下の3点はスムーズな通年採用への移行に当たって重要なポイントになります。是非、参考にしてみてください。

エントリー者の即対応をできる状態か

 通年採用では、年間を通じて求職者に随時対応する必要があります。採用のオペレーション業務(面接の案内や日程調整等)をアウトソーシングしたり、採用管理システムを導入して自動化したりすることも検討しましょう。また、人事以外の社員の協力をいかに得るかを含め、長期的視点で計画して社内の協力体制を整えておく必要があります。

採用HPの設計と求人情報ページを再考する

 採用ホームページのコンテンツ拡充は必ず対応しましょう。
通年採用向けのナビサイトもリリースされてきていますが、まだまだ求人の露出を増やすのが難しい状況です。求職者がいつ見ても魅力を感じられるような採用HPの設計と求人情報ページを再考しておく必要があります。また、通年採用の動きが高まっているとはいえ、一括採用をしている企業が存在する以上、一括採用で重点的に採用活動が行われる時期にはナビサイトへの掲載も検討しましょう。

面接情報のログを残せるようにできるか

 候補者は、面接時に企業への理解を深め、志望度を高めていきます。しかしながら、面接官が変わるたびに同じ内容の質問をしてしまうようなことがあると、途端に候補者の志望度は下がってしまいます。そこで、候補者の情報共有がスムーズにできるように採用管理システムを導入することも検討してみてはいかがでしょうか?面接情報のログを残しておくことにより、蓄積した情報を活用して候補者とのエンゲージメントを高められます。また、システムによっては、タレントプールができたり、蓄積したデータをもとに採用活動の振り返りができたりするので、通年採用の忙しいスケジュールの中でも採用活動の最適化を図ることができます。

まとめ

 通年採用への移行は待ったなしの状況になってきています。みなさまの企業でも通年採用への本格移行に向け検討を始めてみてはいかがでしょうか?