採用活動は候補者と企業のマッチングによって成立します。
恋愛においてのマッチングも相手との「接点」の中でお互いを理解し、意気投合すれば成就するように、採用もお互いの「接点」で与える印象やアプローチで大きく結果が左右します。
こうして注目されているのが採用CX(CX)です。
本記事では今注目の採用CXについて、注目の背景から成功のためにできるステップやポイントを徹底的にご紹介します。
採用CXとは
まずCXとはCandidate Experienceの略で「候補者体験」のことです。
採用のプロセスで発生する全てのCXを、価値あるものにする取り組みのことを採用CXと呼びます。
採用CXが注目されるワケ
なぜ今、採用CXが注目されているかと言うと理由は3つあります。
人材獲得競争の激化
日本では、少子高齢化の影響で将来的に日本の生産年齢人口は30年後までに50%減少すると言われており、今後も有効求人倍率は伸び続けるため、人材獲得競争はより一層激化していくと予測されます。有効求人倍率とは候補者1人に対して、何社の企業が募集をかけているのかを表しています。そのため、有効求人倍率が高いほど企業は採用することが難しい状況にあります。
終身雇用制度の崩壊と人材の流動化
日本ではもともと終身雇用制度というものが主流に存在していました。一度入社してしまえば定年を迎えるまで雇用を保証する制度です。しかし、経済成長期を最盛期とすると、当時に比べて日本の経済は低迷し続けており終身雇用を保証しなくなる企業が増えています。
さらに、個人の実力や成果を評価する企業の増加、転職でのキャリアアップも珍しくなくなった背景から人材の流動が進んでおり、企業は定着して働いてもらえるような取り組みを行わなければならなくなってきました。
採用情報の透明化
インターネットの普及が進み、「口コミ」という形で企業の採用情報を簡単に候補者が取得できるようになりました。
メリット
採用CXを導入するメリットには具体的に何があるのでしょうか。下記でメリットを4点ご紹介いたします。
母集団の形成
口コミに良い投稿をしてもらえる
なぜ母集団形成に効果が感じられるのかというと、良いCXを経験した本人が、1、2年後にリピーターとして応募をしてくれる可能性や、候補者が良い口コミを投稿することで、それをみた第三者から応募をもらえる可能性があるためです。さらには、体験した候補者の友人へと紹介されるなど様々な人同士のネットワークで良い情報が回ることで母集団の形成に期待ができます。
企業、商品のファン獲得になる
選考でのCXが良いと、企業の商品や企業のファンになってくれる可能性があります。企業にとって今は候補者という関係でも、実際はお客様かもしれません。元々のお客様には、今以上に商品や自社に好感を持ってくれたり、新しいお客様の獲得にもつながり得るのが採用CXです。
ミスマッチの防止、従業員の定着率向上
採用CXを改善する中で企業は候補者に自社の文化や取り組み、姿勢を伝える機会が増えます。そうすると、候補者も同様に良い体験の中で企業への関心が深まり、より理解しようと自ら情報を取りに来ます。このようにお互いを理解していく中で選考が進むため、入社後のギャップなどを引き起こしにくく、ミスマッチの防止や入社後の定着を期待できます。
エンゲージメントの高い従業員がカジュアル面談などの面接に参加することで候補者への魅力づけも担うことができるでしょう。
企業の生産性向上
満足な体験をした候補者が入社すると、その体験を企業での仕事に意欲を持って取り組むことや企業への貢献で返そうとする可能性も大いにあります。入社した従業員による向上心や愛着心は既存の従業員へと広がり、結果企業全体の生産性を向上させることにもつながります。
採用CXを導入しない場合のリスク
では採用CXを導入しなかった場合はどのようなリスクがあるのでしょうか。
選考/内定辞退の増加
1つ目のリスクは選考内定辞退が増加してしまうことです。アメリカの企業が行ったアンケートでは、CXの乏しさを理由に60%の候補者が選考辞退しているという結果が出ています。売り手市場の採用市場において、採用CXに取り組まないと6割の候補者が辞退をしてしまうと、企業に取っては相当な痛手となります。
(参照:https://www.careerarc.com/lp/candidate-experience-study/)
サービスへのネガティブな評価
2つ目のリスクは企業へのネガティブな印象が「サービス」へのネガティブな評価に転じてしまうことです。企業へのネガティブな口コミだけでなくサービスに対する口コミを書いた場合でも、不特定多数の人にその評価は見られてしまいます。
候補者が集まらない
3つ目のリスクは候補者が集まらなくなってしまうことです。
よくないCXを提供してしまっていた場合、候補者が口コミなどに体験を書いてしまうと、その口コミは瞬く間に第三者へと伝わり長期的にも影響を受け、母集団が集まらない理由になってしまうなどの損失になります。
採用CX改善のための4ステップ
採用CXが注目された背景から、なぜ採用CXに取り組むべきなのか、重要性について理解を深めていただけたのではないでしょうか。
続いては採用CXを改善するためにどのような順序で進めていくべきかについてご紹介します。
採用ターゲット/ペルソナを明確化
まずは採用ターゲットやペルソナを明確にしましょう。
採用CXの設計において、自社が採用したい人材を明確にすることが重要です。なぜならば、どのようなCXを用意するべきなのかが採用ターゲットやペルソナの決定によって決まるためです。
例えば、新卒と経験者では企業の選定軸や興味のある部分は異なります。もしも新卒と経験者採用どちらも同じ選考を用意した場合、なかなか魅力に感じてもらえずに内定まで繋 がらないということもあるでしょう。
このように「自社で活躍する人材」を採用するためには、ターゲットを定めて「この企業に入社したい」と思わせられるように対策をすることが重要になります。
現状の採用CX洗い出し
採用したいターゲットが策定できたら、現状のCXを全て洗い出してみましょう。
この作業は、現状を把握するために欠かせない作業です。
採用のフェーズごとに5W1Hに当てはめて可視化させることをおすすめします。
なぜなら6つの観点でその場面の採用CXを評価できるためです。
例えば下記のようなCXを用意していたとします。
【ある会社の次回選考の案内時のCX】
WHO | WHAT | WHERE | WHY | WHEN | HOW |
採用担当者A/B | 次回選考予約ができるURLを送付する。 | 選考中、選考が通過の場合 | 候補者に次の選考に進んでもらうため。 | 選考結果と同時に5営業日以内 | メールと電話を利用する。 メール1回電話2回 |
上記の表をみて、CXの洗い出しを行うことで現状を正しく把握し、それぞれの観点で自社の採用CXを評価できます。
例えば
・採用担当者AとBとで同じ対応ができているのか
・5営業日以内ではなく3営業日以内にするべきなのか
・メールと電話だけではなく、違うツールを検討するべきなのか
現状の採用CX上の課題洗い出し
現状のCXを洗い出すことができたら、その体験上でどのような課題があるのかを考えましょう。データを用いて良し悪しを判断することが重要です。
例えば、先ほどの表であげた次回選考の案内を例にすると、メールでの日程調整率は15%、電話での日程調整率は30%だったとします。次回選考の案内において「歩留まり」は十分に改善できる余地があるため、改善するべき課題としてピックアップしておくと良いでしょう。
課題に対する対応策を立案、選定
最後に、上記で課題を抽出できたらその課題に対してどのように対応するのか施策立案を行いましょう。
例えば、先ほどの次回選考の案内においては「歩留まり」が課題であると考えました。この課題に対しても様々な改善施策を考えることができます。
例えば
・メールの送信回数を増やす
・そもそもメールではなく、LINEなどの別ツールを利用する
・選考の最後に「いつどのように結果が通知され、次回予約ができるのか」を予告するなど、自社のリソースを鑑みながらCXを提供できるような施策を選定しましょう。
着目すべき採用CXのタッチポイントとは?
改善のステップの2番目で紹介した「現状のCXを洗い出す」という項目において、そもそもどのようなタッチポイントを他社が用意しているのか、気になった担当者さんも多いのではないでしょうか。
下記で多くの企業で取り入れられている基本のタッチポイントについて紹介します。
現状のCXの洗い出しや課題の洗い出しの際に役立ててみてください。
認知
- 自社ホームページ
- 採用サイト
- 社員インタビュー記事
- プレスリリース
- 求人媒体掲載
- SNS
- 自社イベント、交流会
- サービス商品広告
応募
- スカウトメール
- 求人媒体掲載
- リファラル採用
- 応募フォーム
- カジュアル面談
- インターンシップ
- 説明会や座談会
選考
- 受付の対応
- 面接官の対応や面接への姿勢
- インターンシップ
- オンライン面接
- 合否連絡
内定
- 内定連絡
- 内定者研修
- 内定者フォロー
- 社内イベントや懇親会の実施
- オフィス見学
採用CXを成功させるためのポイント
最後に、採用CXの取り組みを成功させるためにポイントとなる項目についてフェーズごとでご紹介いたします。
認知/応募時のCX
・事実に即した情報を伝える
認知〜応募の時こそ事実に即した情報を伝えるようにしましょう。自社について良い面も悪い面もありのまま伝えることでミスマッチを防ぎつつ、定着率を高めることができると言われています。
採用の過程の中でもなぜ認知〜応募時に重要なのかというと、候補者は初回の接触ポイントの情報で企業に「応募」するかどうかを決めているためです。
もちろん良い面を伝え、悪い面はあまり伝えない方が、応募者は増える可能性があります。ですが、自社で活躍する人材とは違う母集団が集まってしまったり、後から「知っていたことと違った」と選考辞退や内定辞退、退職というミスマッチを起こしてしまう可能性があります。ありのまま伝えることは、企業と候補者双方にとって事前のスクリーニングに役立つため必ず行うようにしましょう。
選考中のCX
・自社の魅力を明確化
自社の魅力は何か、どのようにアピールするのかを事前に明確にしましょう。
選考後のCX
・即レスを心がける
時間が空けば空くほど候補者の優先順位や感度は下がっていきます。感度の高いうちに必ずアプローチすることが重要です。
採用プロセスの改善
・ツールを導入する
ツールや採用代行などの導入をして、効率よく採用業務に取り組める環境を作るなどをして採用プロセスを根本的に改善することも良いかもしれません。
・分析/振り返りを行う
施策を打っただけで終わりにせず、変更したCXについてどのような効果があったのか、振り返りをしましょう。
採用CX向上の取り組み事例
社内で連携して求職者へのレスポンスを早める
採用CX(Candidate Experience)を向上させるためには、求職者に対するレスポンスのスピードが重要です。連絡が遅いと、求職者に不安を与え、場合によっては信頼を失う可能性があります。これを防ぐためには、人事部門だけでなく、全社員が協力して求職者からの問い合わせに迅速に対応できる体制を整えることが必要です。求職者の不安を軽減し、企業への興味や関心を保つためにも、社内での円滑なコミュニケーションと連携が欠かせません。
面接時に飲食を提供し場を和ませる
面接は求職者にとって緊張の場ですが、企業側がリラックスした雰囲気を提供することで、より自然なコミュニケーションが取れるようになります。その一つの方法として、面接時に飲み物や軽食を提供することが挙げられます。例えば、面接担当者がまず飲み物を提供し、場を和ませることで、求職者は自分自身の考えや将来のビジョンを語りやすくなります。企業側が求職者の話に耳を傾け、共感する姿勢を見せることも、採用CX向上につながる重要な要素です。
内定通知に従業員からの寄せ書きを同封する
内定通知を単なる通知に終わらせず、感動を与えるタッチポイントにすることも採用CX向上の一環です。例えば、内定通知に従業員全員からの寄せ書きを同封することで、求職者は「自分が歓迎されている」という実感を持ちます。このような取り組みは、求職者の不安を取り除き、入社へのモチベーションを高める効果が期待できます。内定者が企業への愛着を持ち、入社をより楽しみに思えるようになる工夫として、ぜひ取り入れたい施策です。
事前に自社について詳しく説明した資料を送付する
面接前に求職者へ自社の資料を送付し、企業の理念やカルチャー、仕事内容について事前に理解を深めてもらうことは、面接の質を高める上で非常に有効です。資料には、企業の歴史やビジョン、代表者からのメッセージ、従業員の声などを盛り込み、求職者が具体的な質問を用意できるようにします。これにより、面接時には双方が深いレベルでのディスカッションを行うことができ、採用のミスマッチを防ぐことにもつながります。
まとめ
本記事では採用CXに関して、注目の背景から成功のためにできるステップやポイントをご紹介しました。
採用CXを向上すれば採用以外の場面でも良い効果を発揮し、採用CXがいまいちであれば同様に採用の場面以外でも悪影響を及ぼす可能性があります。
初めから全ての人物に良い対応をすることは難しいですが、まずは自社のターゲットとなる人物に、より興味を持ってもらえるような採用CXの構築を目指しましょう。